落選した候補者のあいさつ文例/例文

本日は私のために、かくも多数のお集まりをいただき、まことにありがとうございました。残念ながら、この度の選挙戦では一敗地にまみれ、ただいまも皆さま方のあたたかい励ましのお言葉を承り、ご厚意が身にしみてねります。

江戸末期の儒者で、博学多才の誉れの高かった安積艮斎(あさかごんさいは、若いころ両親のいいつけで、郷里陸奥の某家へ婿入りしたことがありまし た。ところが、彼は生まれつき片方の目しか見えずで、おでこで、色の黒いブ男であったため妻が極度に彼を冷遇するので、たのしむことがありませんでした。

ある日、ついにその虐待に発奮し、妻と別れて養家を去り、江戸へ出て佐藤一斎の学僕となって、日夜、刻苦勉励し、儒者として大成し、天下に名をな すことができました。その後、艮斎の家の床の間には、いつも一幅の婦人の肖像画がかけてあるので、ある人がふしぎに思い、「いつもあの肖像祈がかかってい ますがあれはいったいどなたですか」とたずねました。

すると艮斎は、「あれは、昔別れた妻の像です。もし当時、彼女がわたしを冷遇しなかったら、私はあのまま一生いなかに埋もれてしまっていたでしょ う。わたしがこうして今日あるのはみんな彼女のおかげであり、その恩を忘れないために、こうして肖像画をかけておいて、日々発奮しているのです」と答えた ということです。

このように、ものごとはすべて、こちらの受けとり方ひとつで生きも死にもするのだと思われます。今回の落選という事実も、私にとっては、次の機会 に当選ということに結びつかなくては、なにもならないのだと思われます。たしかに今回の落選は、私にとりましては、耐えがたいことでありますが、これも未 経験な私の浅慮をいましめるための天の啓示と思い、今後は次の機会を期して、日夜、はげみたいと思っております。

長い選挙戦の間、ほんとうに皆さまご苦労さまでした。心から御礼申し上けます。